今回のお話は、焙煎研究グループ「ROASTARS」の小山くんのnoteから
焙煎の1回目(1バッチ目)はなぜかうまくいかない・・・だからあの手この手でなんとかする必要があるのが焙煎家の大きな悩みでした。これが、通称「1バッチ目問題」です。
その原因のヒントを見つけたのは、Laboで導入した放射温度計の測定値でした。
放射温度計は、対象物の表面温度を瞬時に測定できるという特徴があります。焙煎機に通常ついている熱電対温度計の弱点を克服する可能性のある注目の温度計です。Kuriya Coffee Laboでは、サイトグラス(焙煎豆の状態を観察するためのガラス窓)を通してコーヒー豆の表面温度を測定する試みを続けています。
その放射温度計を取り付けて焙煎機のプレヒート(暖機作業)をしていたときのデータがコレ(緑色が放射温度計、青色が熱電対温度計による温度です)
そして、1バッチ後に同じように測定したデータがこれ
注目すべきは、プレヒート時の放射温度計のグラフの変化。鋸状に凸凹しているのがわかります。それが1バッチ後は滑らかに変化しているのです。
放射温度計は、サイトグラスに対して垂直方向に測定しているため、コーヒー豆が入っていない状態では、ドラムの空間を測定していることになります。ドラム内に何もない場合を想定すれば、ドラムの奥の壁面を測定しているわけです。
しかし、ドラム内はただの空洞ではなく、「ブレード」と呼ばれるコーヒー豆を攪拌するための歯のようなものや、ドラムを回転軸と固定するピラー(柱のようなもの)が複雑に配置されています。
つまり、放射温度計で回転するドラムの内部を測定すると、一定の間隔で、ブレードやピラーに測定ビームが遮られることになります。つまりブレードやピラーの温度も測定しているわけです。
そこで、プレヒート段階で、放射温度計のグラフに凸凹があるのは、「ブレードやピラーとドラム壁面の温度に差があるからではないか?」と考えました。
1バッチ後にその凸凹がなくなり平坦なグラフになるのは、「コーヒー豆を投入することで、熱が分散され、ブレードやピラーとドラム壁面の温度の差がなくなるからではないか?」
ひいては、「1バッチ目問題の原因は、ドラム内の温度分布に差があるからではないか?」と考えました。
もし仮説が正しい場合、「どの部分の温度が高くて、どこが低いのか?そしてその原因は?」も非常に興味のあるところでした。
しかし、この仮説を証明するためには、ドラム内の温度分布を同時に測定する「サーモグラフィカメラ」が必要です。しかも数百度の温度帯で測定可能なものとなれば、そう簡単に手に入るわけもありません。
そこで、東北大学理学部ドクターコースの小山氏、東北大学農学部の山尾氏&村上氏、そしてKuriya Coffee Roastersの栗谷で、結成した焙煎研究グループ「ROASTARS」のメンバーに相談したところ、小山氏から「研究室にあるよ。測ってみましょう!」との回答!!
その結果は・・・(詳しくは小山氏のnoteを読んでください)
なんと、Diedrich Roasterでは、プレヒート状態では、ブレードの温度が最大500℃に達し、ドラムの壁面の温度より200℃も高い場合があることが判明!
そして1バッチ後に測定するとそれらの温度差が大幅に低減されることがわかりました。
したがって、サーモグラフィカメラの測定結果は、放射温度計による測定データから考えた仮説を支持する結果となりました。
また、aillio Bullet Roasterでも同じように測定したところ、異なる結果になりました。これは、焙煎機によって事情が異なる(構造が異なる?素材が異なる?)可能性があることを示唆しています。
小山くんのnoteでも書かれていますが、今後の方針としては、他機種ではどのような状況なのか、まずは測定することが重要だと思います。
もし、この問題に興味がある焙煎家がいたら、ぜひご連絡を!
次は、「1バッチ目問題を解決するエコな方法」について記載したいと思います。